伝説の祭り男
今日から3日間、トシは再び他県に出張だ。
トシの仕事は公共施設からの受注が多いので、
納期も厳しいし失敗は許されない。
誰もがムリと思うような案件を
いつもギリギリのところで
クリアしている様子を聞くと、さすがだと思う。
今度の仕事もお役所が絡んでいるため、
いつにも増して条件が厳しく、
昼夜問わずの作業になるらしい。
その準備のため、
昨日はあちこちに飛び回っているようだったが、
移動の合間に5回も電話をしてくれた。
いつも明るいトシだけれど、
昨日は特にテンション高め。
T:「オレにとっては、
今度の仕事は祭りみたいなものなんだ。
ムリな条件を出されれば出されるほど、
絶対やってやる!と燃えるんだよね。
誰もができないと思うことをやり遂げて
伝説を作りたいんだ。」
K:「そんな風にムリを楽めるなんて、
さすが、トシだね!
話を聞いてると、
私までワクワクしちゃう♪」
トシのハイテンションが乗り移った気がしてそう言うと、
T:「かすみは本当に、いい女だなぁ。
オレ、かすみのそういうところが大好きだよ。」
とトシ。
私にしたら、特別なことを言ったつもりはない。
トシが楽しそうだから、私も嬉しい、
それだけのこと。
そう言うと、
T:「オレが大変な仕事を目の前にして
よし!やってやる!と燃えているときに、
今まで付き合ってきた女は
「ムリしないで」とか
「そんなに頑張らなくても...」
と水を差してきた。
最悪なパターンだと
「そんなに仕事が大事なの?!」
と拗ねたり泣かれたり。
だから、女には仕事の話はしない、
と決めてた。
だけど、かすみはオレが楽しんでいることを
一緒に楽しんでくれる。
それが本当に嬉しいんだ。」
K:「だって、ムリしないでって言ったって
ムリしなくちゃいけないシチュエーションなんでしょ?
トシが大変な状況を苦しんでたら私も苦しいけど、
楽しんでできるんなら単純に良かったな、
って思うよ。」
T:「そんな風に考えられる女は、他にいないよ。
だから、かすみと話すと元気がもらえる。
特に用事もないのに、一日に何回も電話するなんて、
以前のオレじゃ考えられないもんな。」
大好きなトシが楽しそうにしていれば、
私も楽しくなる。
大きな仕事を目前に
トシのテンションが高くなっているときは
私もワクワクする。
私が笑うことでトシを元気づけられるのなら、
いつだって笑っていようと思う。
T:「かすみはオレの元気の素だよ。
かすみに「すごいね!」と言ってもらえるよう
頑張ってくるから。」
K:「うん、また新たな伝説を作って来て♪」
きっと今日から3日間は、
私からのLINEが既読になればマシ、
という状態が続くだろう。
でも、それだけ全神経を向けなくては
こなせない仕事だということ。
愛する男性が仕事に全力投球している時に
足を引張るような存在にはなりたくない。
トシの仕事が無事終わり、
満面の笑顔で私の元に帰って来てくれるのを
楽しみに待とう。
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